
長雨をもたらした前線が南下したためか、同じ晴れでも国頭にいたころと比べていくぶん過ごしやすい陽気となった。南国の強い日差しが照りつけるが、北風が運んでくる乾いた空気のもと、選手の声もよく通る。しかし、今キャンプのキャプテンでチームの元気印である稲田とともに、声出しでチームを引っ張る男の姿がない。背番号53、工藤隆人だ。2時をまわり、野手陣が長めのロングティーを終えたころ、報道関係者に向けたプレスリリースのメールが配信された。「交換トレードのお知らせ」と題されたリリースには、「マイケル中村+工藤⇔二岡+林」のトレードについて簡潔な説明が記されていた。
チーム内にとどまらず、ファンの中にも彼らのことを惜しむ声はあるだろう。快速を飛ばしてフェンスを恐れず打球を追う工藤は、そのガッツで稲田や森本に負けていなかった。マイケルのチームへの貢献度は、いまさら語るまでもない。リーグ連覇は彼の活躍なくして、なしえなかった。
昨年、今年とシーズン開幕直後、肩に違和感をおぼえ調子の上がらないマイケルは鎌ケ谷にいた。自ら望んで選手寮に住み込んだマイケル。寮に併設された室内練習場で行われる夜間練習にも顔を出し、自身の調整に努めるとともに若手に対し惜しげもなくアドバイスを送った。門限時間を過ぎ、誰もいなくなった寮のロビーで彼が語ったことを思い出す。「ファームでこれだけの施設があり、若いみんなは自分たちがどれだけ恵まれているのかわかっているのかな」。確かにファイターズのファーム施設の充実度は、12球団の中でも指折りだ。だがプロスポーツ選手の育成施設として、必要な機能をもりこんだだけではないか。そう頭の中で反論が浮かぶこちらの心の内を察したかのように続けた。「あくまでもアメリカとの比較だけどね」と前置きしたのち、彼は自身のアメリカでの不遇時代を語り始めた。オーストラリアで高校を卒業後、日本で野球をプレーする道を探したが、その想いはかなわずアメリカに渡った。大学を卒業しメジャーへの道を歩み始めたもののなかなか芽がでない日々が続き、その間に結婚、一女を儲ける。マイナーでくすぶっていた日のとある夜、古い借家の寝室で妻と長女が寒さに耐えながら丸くなって寝息をたてていた。20代後半になっても極貧生活から抜け出せず、愛する家族に迷惑をかけている。そう思うと自然と涙が頬をつたった。このときが彼の人生の転機となった。「決意を新たに」と言葉で言うのは易しいが、彼は行動で示した。その後の成功は皆が知るところだ。「あの時があるからこそ、今の自分がいるんだよ。あの環境以上に怖いものなんて、ないはずだからね」。普段はいたずら好きの笑顔が似合う彼が語ったからこそ、聞き入った。気がつくと時計は深夜12時をまわり、日付が変わっていた。
今いる若手にマイケルほどのハングリー精神を持てとはいえない。しかし、彼が担っていたクローザーのスポットがぽっかりと空いた現在、投手陣全員にチャンスがあるといえる。梨田監督は「2ヶ月早いお年玉のようなものだね。オフに頑張れば抑えのポジションが与えられるかもしれないんだから」と上手く表現した。若手選手たちが「我こそは」と台頭することを期待したい。その中には今回のトレードでファイターズへやってくる林も、当然含まれる。
9:45 全体ウォームアップ
10:05 キャッチボール
10:20 投内連係
10:40~12:00 行程(打撃、バント、走塁、ティー打撃)
ロングティー
ランチ
個人練習
コンディショニング
投内連係での宮本選手 |
鵜久森選手を見守る片岡OB |
金子洋選手のロングティー |
取材対応中の宮西選手 |
ストレッチ中。金森選手 |
豊島選手のトスをフルスイング。松山選手 |