

覚悟を決めて
一人ひとりに頭を下げながらハイタッチの列に加わっていた吉川選手の手元に、武田久選手からウイニングボールが渡されました。2008年5月1日以来、約4年ぶりの白星。新聞記事の切り抜きなどはせず、過去への執着が薄い性格も「支えてくれた家族に渡したいですね」と、新たなスタートを意味する1球を握り締めていました。
8回1失点負けの前回登板から一転、この日は3回までに5四球と制球に苦しむ投球。それでも吉井コーチから「投げる姿を変えるな」と助言され、ひるむことなくマリーンズ打線に対峙しました。帽子のひさしに「対打者」と書き込み、走者や勝利投手の権利など邪念を振り払って1球1球に精魂込めました。
栗山監督からは「今年駄目なら俺がユニフォームを脱がせる」と強烈な‘最後通告’を受けて臨む今シーズン。吉川選手自身も「自分でも同じ覚悟は出来ていました」と話し、勝負の年と位置づけていました。オフに夜食まで炭水化物をたっぷり胃袋に詰め込んで体重を5キロ増やし、「常時150キロ」を目標にしたウエートトレーニングに取り組んだ成果が出ています。
斎藤佑選手が開幕2連勝を飾った翌日。千葉の食事会場でスポーツ新聞の競馬予想面が開かれているのを目にし、斎藤佑選手の背番号にあやかって「(単賞)18が来ますかね?」とつぶやきました。同い年の右腕に刺激をもらい、重苦しい呪縛から自らを解き放った24歳。「きょうは野手の皆さんに助けてもらった勝利。次は自分の力で」。そう、辿り着いたのは終着地ではなく出発点なのです。
吉川投手 <5回、球数110、打者22、安打3(本塁打1)、三振4、四死球5、失点1、自責点1>
「調子自体は悪くなかったし、試合には普通に入っていけたんですが、ヨーイドンのフォアボールで波に乗れなかった。3回までに5つ歩かせて1点で抑えられたのはラッキーとしかいいようがないです。そんな中で点を取ってもらえたので野手の方々には感謝しています。残り長いイニングで申し訳ないですが、あとはリリーフの人たちにお任せします。」
栗山語録
「吉川にとって一番イヤなことは、点を取られたり打たれたりすることじゃなくて、自分のボールを投げられないこと。バランスが崩れるところはあったけど、みんなの勝たせてあげようという気持ちも感じたし、こういうことが彼の力になっていくと信じたいね。勝ったことを含めてこの試合の意味を大事にしてほしい。小谷野には無理をさせているけど応えてくれている。稲葉もそう。先に点を取ってくれたし、みんなよくやってくれたから、負けないで良かったよね。」